チャイコフスキー交響曲第5番 [音楽]
Tchaikovsky Symphony No. 5
The Cleveland Orchestra
Franz Welser-Möst, conductor
April 2019 at the National Centre for the Performing Arts in Beijing
約20年ぶりにクリーヴランド管が中国ツアーを行った。
2日間にわたる北京公演は、両日とも全世界に向けてライヴ配信され、オンデマンドとなっている。中国中央電視台のすごさに恐れ入るばかり。
ヴェルザー=メストとクリーヴランド管のチャイ5の演奏時間は、わずか40分だ。速いと言われるムラヴィンスキーでさえ41分なのだから、本曲の最速記録を更新したかもしれない。目の覚めるような緊張感でもって、今までのチャイ5のイメージを鮮やかに覆えす。この演奏では、聴き手が甘い感傷に浸る場面はない。代わりに、沈みかけた心を激しく揺さぶり、奮い立たせる何かがある。迷いのない切れ味の良さ、俊敏さ、張り詰めた緊迫感。どこを切り取っても、辛口なのである。
いつもながら、木管セクションが惚れ惚れするほど美味い。スミスさんとローズンワインさんに加えて、Afendi Yusufさんのクラリネット。冒頭、あざとさのない、控えめな音色でチャイコフスキーの世界に誘う。
第2楽章。抑えきれない感情が溢れ出し、めらめらと燃え上がる。多幸感に包まれる暇はなく、凛々しく進行する。叩きつけるような激しさが印象的だ。
第3楽章。かつての美音に徹するヴェルザー=メストらしさを垣間見ることができるのは、この楽章だけだった。凛とした佇まいの中に、そこはかとない美しさが滲み出た瞬間を感じた。オケの水際だった演奏がキラリと光る。疾風の如く駆け抜ける最終楽章は、圧巻としか言いようのない出来栄えだ。
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