Composer of song ブラームスは歌の人 プロムス演奏会 2 [音楽]
Prom 69
ブラームス 悲劇的序曲
ヴィトマン 悪魔の夢 Jörg Widmann: Teufel Amor (UK初演)
ブラームス 交響曲第2番
指揮 フランツ・ヴェルザー=メスト
演奏 クリーヴランドオーケストラ
オンデマンドになる演奏会を敢えてその時間にスタンバイして聴くのには訳があります。
ラジオを通しての音楽は録音物に近いことは承知ですが、それでもライヴ演奏に少しでも近づきたいという強い想いに駆り立てられるのですね。
ネットラジオ越しではあっても会場の雰囲気は伝わってきます。
今回のクリーヴランドオーケストラのプロムスは気の毒なくらい客の入りが悪かったとか。地元民で溢れたセヴェランスホールとガラガラのロイヤル・アルバート・ホール。聴衆の雰囲気は演奏に影響を与えると言いますが果たして結果は・・・いつもと変わらない抒情性に溢れたブラームスを聴かせてくれました。
全てを包み込む優しさと黄昏時の儚さを感じさせる第2番。
メストさん曰く、ブラームスは "composer of song"(歌の人)であると。
室内楽を演奏するかの如く、各パートが共鳴しながら柔らかくまろやかに歌いあげます。プロの写真家が被写体の良さを最大限に引き出す方法を心得ているのと同じく、メストさんはどうすれば旋律を豊かに歌わせることができるか熟知しているのですね。それは伴奏の付け方であったり、パート間のバランスであったり、細やかなニュアンスであったりするわけです。速めのテンポで颯爽と進むにもかかわらず、要所要所で抒情性が顔を出すのがこの演奏の最大の特徴だと思います。パッションに欠けるというのはお門違いでしょう。そういう方向を目指していないのですから。
ヴィトマン氏の「悪魔の夢」は前日のフルート協奏曲と比べると難しくはあるのですが、不思議と聴き入ってしまいました。すでに何度もオンデマンドを聴いています。『ヴィトマンはオーケストレーションの天才』とメストさんが言うとおり、現代音楽なのに何となく聴けてしまうのですね。独特の雰囲気と諧謔に惹き付けられました。
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12年間で培ったサウンド クリーヴランドオーケストラ プロムス演奏会 1 [音楽]
(IMG Artistsから)
Prom 68
ブラームス 大学祝典序曲
ヴィトマン フルート協奏曲 Flûte en suite (UK初演)
ブラームス 交響曲第1番
*フルートソロ ジョシュア・スミス(クリーヴランドオーケストラ首席フルート奏者)
およそ10年ぶりにクリーヴランドオーケストラが夏のロイヤル・アルバート・ホールに戻ってきました。今夏の音楽祭で最も心待ちにしていた演奏会です。
プロムスを皮切りにヨーロッパツアーが始まるのですが、何とその2日前に突然のヴェルザー=メストさんのウィーン辞任劇。ひっくり返りそうになりましたねー。これからツアーなのにどうなるの?プロムスは?え?え?え?本当にどうなるの?と、極東の日本人が考えてもしょーがないことだとは思いつつ、悶々としていました。
コンサート開始直前、「本拠地のセヴェランスホールは音響が素晴らしく、ニュアンスを聞き取ることができます。セヴェランスホールは我々の楽器の一部なのです。」と、いつものアクセントの強い英語で話すメストさんの声が聞こえてくると、何だかほっとしたのであります。大学祝典序曲が終わる頃には中継前の不安な気分は消えていました。日中の眠気を承知で、2日間ともライヴを拝聴。未だ興奮は醒めることなく続いています^^
ヨルグ・ヴィトマン氏は2009〜2011年の間、クリーヴランドオーケストラのレジデント・コンポーザーでした。(アーティストインレジデンスも同じですが、適訳が不明のためカタカナ表記にしています。)
UK初演の本作品は、クリーヴランドオーケストラから委託を受け、首席フルート奏者のジョシュア・スミスさんのために書かれました。同年代でもあるお2人は非常に親密な間柄。スミスさんの意見も参考にしながら作曲されたようですね。
8楽章で構成され演奏時間はおよそ20分ほどです。現代音楽特有の混沌とした雰囲気やエッジの効いたサウンドの中に、メランコリックな音色やバッハの音楽が顔を出し、最後はバディネリで終わるというユニークな構成。現代音楽は私にとってはまだまだ未知の世界なのですが聴きやすい曲でした。フルートでこんな音色が出せるんだ、とただただ驚嘆するばかり。雄弁で色彩に富んだスミスさんのソロに陶然となりました。
メストさんとクリーヴランドオーケストラのメンバーが12年間で培ったサウンドが顕著に表れたのがメインの交響曲第1番。
メストさんが以前話していた「旋律を豊かに歌わせる感覚」を団員の方がよく理解して演奏しているというのでしょうか。第1番はブラームスが苦悩の末に書き上げた作品として重厚に演奏されがちですが、正反対の純音楽的な演奏に徹しています。どこまでもしなやかに、優雅に、丹念に。
以前WCLVで放送を聞いたときは何がしたいのかよく理解できず落胆しました。楽譜に書かれている音符が再現されているだけのような印象しか受けず、荒々しいサウンドのみが耳に残りました。
今回は全く違っています。綿密で流れの良い音楽に留まるのではなく、全体が瑞々しい色彩で覆われているのです。テンポを揺らしてブラームスの葛藤を表現するのではなく、音色にこだわっているように感じます。引き締まったダークサウンドでは内面の葛藤を、流麗な暖色系のサウンドではブラームスの心の平穏を。暗から明へのカタルシスの代わりに、肩肘を張らないブラームスの姿が浮かび上がってくるのです。
ブラームスの交響曲第1番はこの12年間の賜物と言えるでしょう。ブラボ〜!
UK国内でのテレビ放送、ノーカット版がアップされています。ありがたや。
Franz Welser-Möst - Joshua Smith -Cleveland...
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サンセットの音楽 [音楽]
シャオメイさんのパルティータのアルバムから今日は第4番を。
パルティータの中でシャオメイさんが最も好んでいるのがこの4番なのだとか。
バッハ パルティータ第4番二長調 BWV 828
1. プレリュード
2. アルマンド
3. クーラント
4. アリア
5. サラバンド
6. メヌエット
7. ジーグ
私にとっては、
パルティータの第1番がサンライズの音楽ならば、
パルティータの第4番はサンセットの音楽。
夜ひっそりと静まった部屋で聴くと、もやもやとした負の感情が洗い流され、
新たな気持ちで明日を迎えられるような気がするのです。
シャオメイさんはパルティータの中でとりわけ、
アルマンド
サラバンド
ジーグ
のセクションを偏愛しているそうです。以下、ライナーノーツからの抜粋です。
『アルマンドの持つ類い稀なるリリシズムを愛しています。バッハが苦手な人には、第4番や3番のアルマンドを勧めますね。
サラバンドは偉大なる瞑想の瞬間です。パルティータのような世俗的な音楽が神聖な音楽へと向かう瞬間があるのです。キリストの受難を瞑想する時が。 ジーグの持つ活力には抗いがたい魅力があります。』
明るく力強いタッチで始まるプレリュード。軽やかでビロードのようなピアノの響きに引き込まれます。心の中の煩悩が浄化されてゆく感覚があります。実はこのブログを書いている最中にニュースとんでもないが流れて来たので、心が乱されてソワソワしていたのですが、冒頭のメロディを聴くにつれて落ち着きを取り戻しました^^;
抒情性に富んだアルマンド。シャオメイのさんの内省的なタッチを聴くと自然と夕暮れ時の長閑な風景が浮かんできます。快活なクーラントと嫋やかなアリア。神聖な世界を感じさせるサラバンド。和やかなメヌエットを受けて最後のジーグ。ヴァイタリティに満ち溢れた世界は圧巻の一言です。
タグ:Zhu Xiao-Mei BACH