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冷静怜悧なチャイコフスキー [音楽]

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(今月上旬にザルツブルクに登場したドホナーニさん。ザルツブルク音楽祭のHPから拝借。)



現在、ドホナーニさんがデッカに録音した音盤の再販が真っ盛り。その中で最も期待していたのがウィーンフィルと録音したチャイコフスキーの交響曲第4番です。中古店で入手できず悶々としておりましので、再リリースのニュースを聞いた時は舞い上がってしまいました。


交響曲第4番はチャイコフスキーが37歳のときの作品。私生活では6週間の短い結婚生活の後、離婚に至るという不運に見舞われています。鬱屈した感情が全面に現れた第1楽章、小康状態を思わせる第2楽章、弦楽器がピッツィカートのみで進むユニークな第3楽章、何だかよく分からないけど吹っ切れたような明るい第4楽章と、ユニークな構成です。


ここまで感情の起伏がはっきりした曲の場合、指揮者も奏者もその音楽に酔ってオーバーな演奏になることがあります。昔舞踊を習っていた時「やり過ぎ」をよく注意されました。踊りの伴奏は箏と笙がメインで、山場が来ると篳篥や龍笛が入り大変賑やかになります。その賑やかさについ酔ってしまい、所作が仰々しくなることがありました。踊っている本人は心地良いのですがはたから見ると大仰さが目についてお腹いっぱいになってしまうのですね。


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さてその演奏。冷静怜悧なチャイコフスキーであります。大きく力強いティンパニや鋭角的な響きの金管を聴きますと、ああ、これはドホ先生だなあと思わずにはいられません。オーバーにならないように手綱をしっかりと握って粛々と音楽が奏でらます。奏者が暴走しようものなら容赦ない駄目出しが飛んできたのではないかと想像してしまうのです(これは褒め言葉)。


第1楽章、幾分ゆったりとしたテンポで金管楽器による「運命の動機」が演奏されます。結構ゆっくりまったり進むのかと思いきや、堂々とした中庸のテンポ設定を取っているので聴きやすいです。豊穣なブラスと分厚い弦はさすがウィーンフィル。しなやかでクリスタルな響きをもつクリーヴランドとはまた違った味わいがありますね。

他の指揮者ならもっとやるだろう思われる個所を本当に抑えて演奏するので最初はちょっと物足りなさを感じるのですが、曲が進むにつれ全く気にならなくなりました。夏の夜に聴きたくなる折り目正しいクールなチャイコフスキー。一押しです。


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行書のラヴェル [音楽]

先日BBCプロムスで、アレクサンドル・タローさんの弾くラヴェル 左手のためのピアノ協奏曲を聴きました。ピアノもオーケストラもこの上なく素晴らしく、ネットラジオからでさえもその高揚感が伝わってきました。会場で聴いた人はさぞかし興奮したことでしょう。

その後YouTubeに動画がアップされていたので、早速視聴しました。
おや、譜面台に楽譜があるではないですか。





今読んでいるピアニスト 山崎孝氏の『名ピアニストたちとの出会い』によりますと、タローさんはジェルメーヌ・ムニエ門下とのこと。このムニエ氏というのは、「不確実な暗譜よりも徹底した完全性が望まれる」と著者に語ったことがあるそうです。タローさんの演奏というのは薫陶を受けたムニエ氏の教えに忠実なのだとか。タローさんが楽譜を譜面台に置いて演奏するのはあまり珍しいことではないそうですね。


左手のピアノ協奏曲は最近の録音ではエマール先生のCDがお気に入り。タッチが深く暗部を際立たせるようなピアノで、タローさんとは対極にある楷書体のきっちりとした演奏です。



一方、タローさんは行書です。堅実さと自由さを両立させた構成感が大変に見事で、流麗な鍵盤さばきが光ります。ラヴェルの協奏曲をフランスのピアニストが弾くと、必ずその人にしか出せないフレージングであったり、ピアノタッチがあるなあといつも思うのです。バヴゼさん然り、エマールさん然り、ティボーデさん然り。タローさんも例外ではありません。今回は中間部の行進曲風の個所のフレージングにはっとさせられました。


伴奏はファンホ・メナさん率いるBBCフィルハーモニック。この伴奏は上手いですね。メナさんという指揮者はよく目にする名前だったのですが、今回初めて聴きました。バランス感覚に優れた方です。ライヴとは思えないくらいよく纏まっているのですが、守りの体制を取るのではなくて、タローさんのピアノと同じく溌剌とした躍動感がありました。来シーズン、クリーヴランドにも客演するので楽しみです。


BBCのオンデマンドはこちらから。


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深沈厚重なシューマン [音楽]

遅めのテンポで正しく拍をとりなおかつべたっとならないように演奏するのは至難の業であります。
箏の先生から常々、練習するときはテンポを落として!しっかり拍を意識して!と言われるのですがいつもあっぷあっぷしています。もっさりしそうになるし、息切れしそうになるし。そういえば、ドイツのヴァイオリニスト、フランク・ペーター・ツィンマーマンさんも最近はゆっくりなテンポで練習することを心がけているそうですね。去年のN響定期のインタビューでお話されていました。細部にわたるまで確認するには速く弾いては効果がないそうでして。


シューマンのピアノ協奏曲というと、ほとばしる感情の嵐のような曲でありますので、お若いピアニストさんは速いテンポで駆け抜けるように弾くことが多いです。もちろんそういう解釈も魅力的ですが、私はクラウディオ・アラウの悠然としたシューマンを愛でております。


アラウはシューマンの協奏曲を5回録音しているそうなのですが、私が知っているのは以下の3つ。
そのうち頻繁に聴くのは1と2です。60歳前後ですからピアニストとして円熟期を迎えた時期の演奏と言えるでしょう。

1. アルチェア・ガリエラ指揮、フィルハーモニア管弦楽団 (1957年)
2. クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 (1963年)
3. コリン・デイヴィス指揮、ボストン交響楽団 (1980年)

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(ちょっとジャケットが。。)

実はシューマンのピアノ協奏曲で初めてアラウの演奏を聴きました。ピアノのタッチ、フレージング、アーティキュレーション、独特のアクセントと間合い、すべてが新鮮で理想的でした。

勢いで聴かせるのではなくて、要所要所で立ち止まる瞬間というものがアラウのシューマンにはあるのですね。この間合い、音符と音符の間が、何とも言えず実に素晴らしいのです。時間にしてほんの数秒なのかもしれないのですが、一種のスパイスのような感じです。

全体を通してかなり遅いテンポにも関わらず、メリハリをきかせながらしっとりと歌い上げるので重たい感じがしないのですね。伴奏も弛緩することなくピアノに寄り添っていて完璧です。一音一音噛み締めるように進んでいく泰然とした演奏。ここまで温もりのある抒情性に満ち溢れたシューマンのピアノ協奏曲を未だに聴いたことがありません。




ちなみにドホナーニさんとロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が伴奏をしたCDが今月末に再販されます。ドホ先生の再販ラッシュの一環でしょう。

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Grenzenloses Vertrauen 揺るぎない信頼とプロ意識 [音楽]

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通常の音楽シーズンが終わり、日本をはじめ世界各地で夏の音楽祭が開催中です。
スイスのヴェルビエ音楽祭にヘルムヒェン&ヘッカーデュオが出演するということで楽しみにしていました。現在オンデマンド配信中です。

音楽祭に先立ち掲載されたインタビューで、ヘッカーとの演奏について興味深く語っています。夫婦で演奏するのは通常と違いますか?という問いに対し、
公私共々にお互いをよく知っているのでとても信頼できるけれども、同時にプロとしての演奏技術を維持することを常に意識していると。(グーグル先生を頼りにドイツ語→英語に翻訳したものを読みました^^早くこれが読めるようになりたいw)

確かに演奏中の二人の表情はお互いへの信頼と自信に満ち溢れていましたし、ソロや協奏曲で演奏する時には見たことのない面差しが強く印象に残っています。この二人、こんなに熱いんだ〜と。



曲目は次の通り。

ヴェーベルン チェロとピアノのための3つの小品 作品11
ブラームス チェロソナタ 第1番
シューベルト アルペジオーネソナタ



1曲目のヴェーベルンは初めて聴きます。音符の間に漂う並々ならなぬ緊張感とでもいうべきものを感じました。アルディッティ弦楽四重奏団による細川俊夫さんのCalligraphyを聴いた時のような感じです。ここの記事によると、ヘルムヒェン自身、冒険(リスク)を承知でヴェーベルンの曲を取り上げているらしく、「素晴らしい聴衆がいると確信できなければ、絶対に上手くいきません。」と。演奏後パラパラと拍手を始める様子から察するに、大多数のお客さんにとっては「何かよくわからないけれど凄いね」という印象なのでしょう。でも聴く機会が増えればそういうアレルギーも無くなりますね、きっと。


2曲目のブラームスは3曲中最も説得力がありました。
ブラームス32歳の時の作品です。お母様をこの年に亡くしたブラームス先生の深い悲しみ、寂寥感のようなものが全体を覆っています。
ヘッカーさんのチェロはやや朴訥な音色で実直。ストレートで誠実なチェロの響きをヘルムヒェンのピアノが脇で支えて時折リードするといった感じでしょうか。第3楽章のお互いが一歩も引かない白熱の演奏は見事と言うしかありません。


トリのアルペジオーネは・・・。演奏技術は完璧ですし二人の息もピッタリなのですが、うーんなぜか私の心の琴線はブラームスほどは動きませんでした。強いて言えば健康的すぎるからでしょうか。シューベルトの陰鬱な叫びや焦燥感、絶望感といったものがあまり感じられなくて。。いや素晴らしいことは間違いないのですが何かが足りないのですねぇ。1回の演奏で断定するのは危険なので、レコーディングしたディスクのリリースを待ちます。今年の始めにアルペジオーネ他数曲を録音したそうです。


アンコールのブラームス(5つのリート Op. 105 第1番 調べのように私を通り抜ける)がこれまた絶品でございました。
ブラームスの方が相性が良いのかしら。





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