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"Newly minted for the occasion"  ー この日のための特別な田園 ー [音楽]

クリーヴランドオーケストラ 14/15シーズン オープニングコンサート

BEETHOVEN: Symphony No. 6, “Pastoral”
RAVEL: Alborado de gracioso; Valse nobles et sentimentales; La Valse
Franz Welser-Most, conductor
The Cleveland Orchestra

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“Franz Welser-Möst and the ensemble, fresh off a European tour, blew a capacity Severance Hall audience away with stunningly fresh performances of well-known pieces that seemed newly-minted for the occasion.” Daniel Hathaway clevelandclassical.com 
ヨーロッパツアーから戻ったばかりのフランツ・ヴェルザー=メストとオーケストラは、この日のために出来上がったばかりのような、この上なく瑞々しい解釈で有名曲の数々を演奏し、セヴェランスホールいっぱいの観客を魅了した。



1808年 12月22日、ウィーンにてベートーヴェン自身の指揮により、交響曲第5番(運命)と第6番(田園)が初演されました。両方いっぺんに聴かされた当時の人は腰を抜かしたんじゃないかな、といつも思います。今でこそ古典ですが当時は現代音楽ですから。


泰西名曲をどう聴かせるかは指揮者の腕の見せ所です。
田園はそれほど好んで聴く曲ではなかったのですが、中継で聴いている時に優しくそっと語りかけるような弦に身震いしました。弦楽器の生演奏を聴いて涙腺が緩むような感覚に近く、歌うような典雅な演奏に陶然となったのです。


第1楽章「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
さらなる副題として、フランツ先生と巡るオーストリアの田園地帯と命名したくなる溌剌とした演奏です。先生に引率されて郊外の森にやって来た子供たちが、大喜びではしゃぎ回っている光景を想像せずにはいられません。 溢れんばかりのエネルギーが炸裂しているのです。
弾むように颯爽と演奏されるかの有名なシシドミ〜♪の旋律を聴くと、目の前に映像や書物で見たオーストリアの田園風景が広がってゆきます。強靭でありながらも弱音では優美に柔らかく歌う弦セクションがことのほか出色です。


第2楽章「小川のほとりの情景」
弦と木管がよくブレンドされて心地よい響きです。
各セクションが立体的に絡み合っているとでもいうのでしょうか。お互いの音色を聞き合い、臨機応変に合わせてゆくことでのっぺりしない非常に彫りの深い演奏になっています。スミスさんのまろやかなフルートはいつもながら素晴らしいの一言。うつくしい。
興奮気味だった子供たちも落ち着きを取り戻し、ゆったりと辺りを散策する姿が思い浮かびますね。長閑でいいなあ。


第3楽章「田舎の人々の楽しい集い」
とても優雅に奏でられるのでお上品な方々の集いのようです。


第4楽章「雷雨、嵐」
おどろおどろしい不気味な雰囲気はありません。待っておりました!さあ、嵐がやって参りました!みたいな、仰々しい演奏が苦手なので、メストさんの解釈には腹落ちいたしました。ティンパニは抑えめですが隙のない合奏力が全面に出ています。


第5楽章「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」
本曲でもっとも好きな楽章。信仰心の有無に関わらず思わず手を合わせて神様に感謝したくなるのですね。淑やかな弦の音色が秀抜。心の中の嵐も去ったかのように穏やかな気分になりました。



オンデマンド、明日まで聴けます。




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Lightness is not the opposite of seriousness. [音楽]

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爽やかな秋晴れの一日でした。




ケンピニスキー・アーツ・プログラム・フェローシップを獲得したイギリスの若手指揮者、ジョナサン・バーマンさんが、今年1月にクリーヴランドとマイアミでヴェルザー=メストさんとマイケル・ティルソン=トーマスさん(以下、MTT)の元で研修を受けた際のレポートをアップしてくれました。とっても面白かったので紹介します。



クリーヴランドオーケストラとヴェルザー=メストさんの音楽はもう四六時中聴いているので、バーマンさんのレポートはうんうんそうそうと頷く個所が多かったのですが、残念ながらMTTさんの部分は演奏をあまり聴いたことがないので(MTTさんのGM3は大好き!)深く理解するには至りませんでした。しかしながら、お二人を私自身の箏の師匠と時々教えてくださる別の先生のに置き換えて考えると、なるほどなあと思う部分が多々ありした。



MTTさんのキーワードはActive playing。教えられたことを機械的に再現するのではなくて、積極的に、よく考えて演奏するように指示を出します。リハーサル前の事前準備は高いレベルを要求するし、規律も厳しいようですが、「演奏者自らの考えと積極的な演奏姿勢」を最も重視している、とバーマンさんは述べています。音楽院を卒業したばかりの若手演奏家のための育成オーケストラでのリハーサルなので、音楽監督を努めるサンフランシスコ交響楽団での場合とは勝手が違うかもしれませんが、MTTさんの音楽作りの基本姿勢と言えるでしょう。



一方、ヴェルザー=メストさんの音楽作りの根底には如何なる場合にも揺るがない理想があるとバーマンさんは述べています。それはメストさんの言葉を借りると、"Lightness is not the opposite of seriousness.”(軽妙さと重厚さは相反するものではありません。)という姿勢です。
モーツァルトからヴィトマンまで広範囲にわたるレパートリーのリハーサルを聴いたそうですが、どんな曲を振っても決して曲の内容を台無しにすることなく、軽快で透明感あふれるテクスチャを紡ぎだしていたとバーマンさんは語ります。


バーマンさんにとって最も印象に残ったのはブラームスのリハーサル。1月のブラームスフェスティバスのお話ですね。ちょっと引用します。

I was able to see how deep Welser-Möst’s decision making and rehearsal went and thus challenge my own ideas. He managed to find a balance between keeping the lightness, flow and humour of Brahms’ writing, whilst still giving weight and time for the details of the score, allowing the underlying structures to come out in such delicate and subtle ways that it showed me the crudeness of my own ideas.
(マエストロの意思決定は考え抜かれたものであり、非常に濃い内容のリハーサルが進んでゆくさまを目の当たりにできました。その結果私は、自身の解釈を再考することができたのです。マエストロは、スコアの細部を重視して時間をかけつつも、軽やかさ、音楽の流れ、そしてブラームスの書いたユーモアを損なうことなくバランスを取っていました。結果、非常に緻密で精巧な方法で作品の根底にある構造を引き出したのです。かくして私は自分の考えが未熟であったことに気付きました。)

*不自然な日本語が多々ありますが悪しからず。


考え抜かれた素晴らしいブラームスがこちらです。





全文はここで読めます。



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ブラームス 交響曲第3番 [音楽]

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某所で見つけた柿の木。秋ですね。



ブラームスの交響曲第3番は長らく苦手な曲でした。
第3楽章の甘ったるいメロディは暑苦しくて好きになれず(ごめんなさいね、ヨハネス)、第1楽章のふわふわした感じがこれまた落ち着かない。数年前に地元のオケの定期演奏会で生演奏を聴いたはずなのに何も印象に残っていないという有様でした。


大好きなオーケストラと指揮者が演奏するということで、軽い気持ちでネットラジオの前にスタンバイしたのが先月のことです。
もちろんクリーヴランドオーケストラとヴェルザー=メストさんの演奏会。ウィーンでのブラームスチクルスの録音放送でした。

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おおおおおーーー。
ふんわりとした立ち上がりにすぐさま惹き付けられ、
これでもかと歌いまくる弦楽器に仰天し、
オケをガンガン煽っているのであろう指揮者殿の姿が容易に想像できたのでありました^^


独特の詩的な雰囲気と浮遊感が今の自分にぴたりとはまるではありませんか。
不安、焦燥、寂寥、悲嘆、束の間の平穏といった様々な感情が交錯する第1楽章に、こんなに惹き付けられるとは思ってもいませんでした。
平々凡々とした生活をしていた時は受け付けなかった理由が分かる気がします。要は私は疲れているのでしょうねえ^^;



ブラームス先生は本作を50歳の時に書き上げました。
同じクリーヴランドオーケストラでもドホナーニさんとの録音は孤高の演奏なのですよね。どこまでも私情を排し静かに淡々と進むのです。50歳のブラームス先生の心情を端的に表現しているのはドホ先生の方かなあ。
メストさんはタメはいつも通り全然ないのですが、あらゆる楽器が歌いまくるんですねえ。ど、どうなすったんですかって尋ねたくなるくらい第1楽章で弦楽器がうねっているのです。ほとばしる感情を抑えきれず一心不乱に突き進んでおりました。体感温度低めのドホ先生とは好対照であります。


苦手意識のあった第3楽章のあのメロディ。レガートを効かせてたっぷり歌うのですが、胃もたれしないしなやかさが私の好みど真ん中。
内に秘めた感情を発露し静かに終わる第4楽章も申し分のない演奏でした。



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