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シベリウス ヴァイオリン協奏曲 [音楽]

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Sibelius Violin Concerto
Bavarian Radio Symphony Orchestra
Franz Welser-Möst, conductor
Nikolaj Znaider, violin
2014年

シベリウスは、その生涯の中で協奏曲を一曲だけ残した。今回取り上げるヴァイオリン協奏曲だ。ロマン派の名曲であり、ヴァイオリニストのレパートリーとして定着している。美しさの奥に激しい情感と色香を湛えた名曲だ。曲の冒頭に「極寒の澄み切った北の空を、悠然と滑空する鷲のように」と指示があるとおり、北欧の深い森や厳しい自然を思い起こさせる。

昔からこの曲が好きなので、フランク・ペーター・ツィンマーマン(新録の方)やギル・シャハム、諏訪内晶子さんの演奏で繰り返し聴いてきた。先日録音の整理をしながら、ズナイダーの演奏を見つけた。2014年のバイエルン放送響での演奏会だ。当時はあまり気にもとめず、後半のくるみ割り人形ばかりを聴いていた。3年ぶりに聴いてみると、その音色に耳が釘付けになってしまった。翳りのあるややくぐもった音色。美音なのだけれど、ギルシャハムのようなキラキラと光を放つような音色とは違うのだ。輝きを内に秘めたブラックパールのような雰囲気が、曲の持つ抑えた情熱や官能性を存分に引き出していた。かつて覚えのない不思議な感覚だ。ヴェルザー=メストと共演が多いのは、同じ事務所だから?と邪推したのが恥ずかしい。これはヴェルザー=メストが好む音楽だろうな...。

冒頭、ねっとりとした潤いのある音色が、じわじわと体の中に染み込んでくるような感覚が走る。余分な力を削ぎ落としたズナイダーのボウイングが実に素晴らしい。ズナイダーが鷲ならば、ヴェルザー=メストとバイエルン放送響は、北欧の澄み切った空気なのだ。ソリストにぴたりと寄り添い、控えめな響きで魅了する。そりわけ、フルートの楚々としたソロが印象的だった。

ズナイダーは、分かりやすい個性に溢れたタイプでないが、聴くたびにその良さに魅了される。先日のN響でのメンデルスゾーンも素晴らしかった。彼の持ち味である勢いのあるボウイングと、洗練された線の太い美音が出色だった。シベリウスの後に演奏されたアンコールのバッハも、憂いを帯びた音色が後を引く。彼の独奏で、バッハをもっと聴いてみたい。


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ブルックナー 交響曲第7番 [音楽]

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Bruckner Symphony No. 7
The Cleveland Orchestra
Franz Welser-Möst, conductor
January 2017, Miami Knight Concert Hall
オンデマンドは、来週月曜日まで。)

人は、光り輝くものに惹かれる。太陽でも月の光でもいい。輝いているものに魅了されるのだ。マイアミ演奏会のブルックナーは、燦々としたきらめきを放っていた。指揮者と奏者の揺るぎない自信。湧き上がるような熱気と高揚感に溢れ、非の打ち所がない演奏だ。

ヴェルザー=メストの7番は、これまでに4種類聴いている。ユースオケ、ロンドンフィル、クリーヴランドとのレコーディング3種、そして去年のコンセルトヘボウ管デビューの演奏会だ。今回のマイアミの7番は、巧みに情感を付けながら、エネルギーがほとばしるような熱い演奏だった。マイアミコンサートホールの恵まれた音響も、一役買っているだろう。WCLVの録音技術のおかげで、日本にいながらこんなに素晴らしい響きを堪能できるのだから、実にありがたい時代だ。

ヴェルザー=メストの音楽は、その美しさに焦点が集まる。もちろん、今回のブルックナーも極上の美を追求した演奏だ。ただ、今までとは違う。指揮者と奏者が、同じ地点へ向かって無心に進んでいく。音楽があるのみだ。彼は、クリーヴランドでの音楽づくりで重要視する点として、奏者の”self-confidence”を上げている。大勢で合奏する場合、各自が自信を持って奏でなければ、芯のある響きは生まれない。これは邦楽でも同じなのでよく分かるのだ。凜とした強さのある美しさほど、完璧なものはないだろう。特に弦セクションの優雅さと強靭さを兼ね備えた太い響きは、心に深く刻み込まれた。

冒頭の弦のトレモロの後、豊穣なチェロの響きで曲は始まる。アンサンブルが完璧なのはいうまでもない。ブルックナーの音符が、澄み切った空気の中で、凜として輝く花々のように感じられた。光の差すような神々しい雰囲気の第2楽章。さりげなく淡々と進むかのようでありながら、曲の持つ優美さ、繊細さが胸に響く。

第3楽章のスケルツォは、非常にテンポよく音楽が流れてゆく。繰り返しが続くので、演奏によっては退屈しそうな楽章だ。マイケル・ザックスさんの颯爽としたトランペットの音色が、高らかに鼓膜を突き抜ける。フィナーレの軽やかさは、このコンビならではの響きだろう。

大きくテンポをゆらしたり、特定の楽器を際立たせる場面は一切ない。どこまでも自然体でありながら、ブルックナー7番の魅力を余すところ無く伝える秀演だ。演奏から伝わってくる電流のようなまぶしい震えが、私の心の中にいつまでも残っている。


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