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プロメテウス・プロジェクト in 東京 [音楽]

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The Creatures of Prometheus
Beethoven Symphony No. 1
Beethoven Symphony No. 3

The Cleveland Orchestra
Franz Welser-Möst, conductor
June 2, 2018 at Suntory Hall

祭りが終わった。
オーケストラの創立100周年を記念し、「プロメテウス・プロジェクト」と銘打ったフランツ・ヴェルザー=メストとクリーヴランド管弦楽団によるベートーヴェン交響曲全曲演奏会が、先日幕を閉じた。私が聴いたのは初日の演奏会なので、すでに2週間が経つが、記憶は薄れるどころか、今でもあの日の光景が脳裏に浮かぶ。

プロメテウス・プロジェクトを知ったのは、2年前の夏だった。地元クリーヴランドの文化系ラジオ番組”The Sound of Applause”に出演したヴェルザー=メストが、その構想を雄弁に語っていた。ついにベートーヴェンツィクルスが実現するのだ!と、夜中に興奮したのを今でもよく覚えている。

私がヴェルザー=メストとクリーヴランド管の音楽を聴き始めたのは、2011年からだ。プロフィールに書いているとおり、非常に不思議な出会いだった。以降、商業録音はもちろんのこと、地元ラジオ局の放送を録音しては繰り返し聴く、という生活を続けている。去年、来日の詳細を知った時の喜びと言ったらもう...。

といいながらも、昨秋より生活環境が大きく変化し、コンサートへ行くこと自体が危うくなっていた。実は5月の下旬になっても、プロメテウス・プロジェクトへ行ける可能性がほとんどなかったのである。もう生演奏を聴くことは叶わないのかと意気消沈していた5月30日。突然予定が立ち、急いで6月2日のチケットを購入する。チケットと切符が揃ったのは何と5月31日であった。奇跡としか言いようのないことが起こり、私は上京した。

サントリーホールへ行くのは、2011年のウィーンフィル公演以来、こちらも実に7年ぶりだ。クロークに荷物を預け、席に着いたのは開演15分前くらいだっただろうか。ステージでは、第1ヴァイオリンのパクさん、真覚さん、グさんが、席配置についてオケのスタッフと話している。パートをさらっている奏者さんもかなりいた。

ふとRBブロックに目をやると、楽団関係者の姿が目に留まる。理事、楽団長、そして来日公演の最大のスポンサーである藤田浩之氏と奥様の姿が見えた。しばらくして、アンゲリカ夫人(ヴェルザー=メストの奥様)が来場し、藤田氏と大きくハグを交わした後、談笑されていた。

演奏会は、プロメテウスの創造物で幕を開けた。ふわっと柔らかいのだけれど、鋼のような強靭さを備えた弦楽器の音色がホールに鳴り響く。

フルートとオーボエの1番奏者が、準首席から首席の両名(スミスさんとローズンワインさん)に代わり、交響曲第1番が始まった。印象深かったのは、第2ヴァイオリンが奏でる繊細な旋律で始まる第2楽章だ。淑やかな雰囲気を纏った弦の音色。ああ!これだ!まさにこれだ!私はこの音色を聴きたかったのだ。どことなく翳りのある、消えゆくような弦の響きに、早くも心の奥底が震えた。

後半の開始前に、天皇皇后両陛下がご来場された。ヴェルザー=メストと親密なご関係にあるので、5日間の中でいつかはお越しになるであろうと予想していたが、まさか初日とは。(光栄な限りでした。)

さて、後半は交響曲第3番、英雄だ。
第1ヴァイオリンが18人?...まずそのとてつもない大編成に仰天した。いったいどんな音になるのだろうと不安がよぎったのも束の間、冒頭のジャン、ジャン。何と澄み切った強奏だろうか。洗練を極めた音の迫力に、ただただ圧倒されるばかりだった。歌うところはこの上なく優雅に(第1ヴァイオリンのボーイングが、本当にピタリと揃っていた)、抑えめのブラスが嫋やかさを添え、柔らかな木管が綺麗に溶けあう。あっという間に第3楽章まで来ていた。

マーラー9番の第3楽章や、6番の終楽章のような勢いで、畳み掛けるように走り抜けた第4楽章。オペラのようなドラマティックさを持って、クライマックスを歌い上げたのだった。アスリートがラストスパートをかけるかの如く、アクセルを全開にし、ラストへと駆け抜ける。これぞヴェルザー=メストの音楽の真骨頂であり、クリーヴランド管とだからこそなし得る妙技なのだ。今回の一番の収穫は、彼らの強靭で澄み切ったフォルテサウンドを、全身で浴びたことかもしれない。一点の曇りもない音色に、完全に心を奪われたのだった。

演奏会は20時過ぎに終演した。ホワイエで余韻に浸りたい、出待ちをしたいという気持ちをぐっと抑え、夜行バスへと急いだ。

翌日、招聘元のアマティさんが、2日の写真をインターネットに掲載していた。何とそこには、一般参賀中のヴェルザー=メストに拍手を送る自分の姿が。最高のお土産になった。


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