ハイドンの主題による変奏曲 - Johannes Brahms Cycle No. 7 - [Johannes Brahms Cycle]
(八重のムクゲです。)
Variations on a Theme by Haydn, Opus 56a
The Cleveland Orchestra
Franz Welser-Möst
February 2015, Severance Hall
クラシック音楽には、ブラームスの交響曲第2番のように、瞬く間に虜になる曲と、とっつきにくい曲があると思う。ハイドン変奏曲は、私にとっては後者の曲だ。先日、過去の録音したネットラジオを整理中に、ヴェルザー=メストが2011年のウィーンフィル定期で同曲を指揮していたのを見つけた。きっと自信のある曲なのだろうな。当時ハイドン作とされていた(最近の研究では違うようです)主題は、親しみやすく、木管の優しい音色が印象的だ。野に咲くタンポポのような素朴な主題から、R.シュトラウスの交響詩に匹敵する雄大な変奏曲を生み出したブラームスは、やはり天才としか言いようがない。去年のBSの放送から1年を経て、ようやくその良さが分かってきたと思う。
1873年、ブラームスはミュンヘン郊外のトゥッツィングで、夏の休暇を過ごす。2つの弦楽四重奏曲を作曲した後、交響曲第1番を完成させる代わりに、ハイドン変奏曲を作曲したという。この頃はすでに作曲家としての名声を確立し、実り多い時期であったようだ。このハイドン変奏曲には2台のピアノバージョンもあるらしいので、今度ルプーとペライアの演奏を聴いてみようと思う。
聴かせどころを心得たヴェルザー=メストの確かなタクトと、それにきっちりついてゆくオーケストラが今回も素晴らしかった。随分と速いテンポ設定をしているにもかかわらず、アンサンブルが瓦解しないのはオーケストラの底力の表れだ。
颯爽とした瑞々しい響きの第1変奏からは、新しいことを始める前の、期待を膨らませて心躍らせる情景が浮かぶ。第2変奏は緊迫感のある短調。キビキビとした棒さばきが心地よい。険しい上り坂を終えて一休みするようなイメージの第3変奏では、明朗な木管の響きが秀逸だ。停滞期で苦しい時期を淡々と過ごすかのような第4変奏では、情感は抑えめに、滑らかに音楽が進む。ここを重たくしないのは、ヴェルザー=メストらしいと思った。翻って第5変奏は、パッと視界が開けるかのごとく明るさを取り戻す。そして個人的に最も好きなのは第6変奏だ。人生の絶頂期にいるような光景であったり、はたまた、子供たちがオーストリアの田舎で鬼ごっこをしているような様子が浮かんでくる。ヴェルザー=メストとオーケストラは、非常に快活なテンポでもって駆け抜ける。指揮台の上で飛び跳ねる姿には思わず笑ってしまった。団員さんも微笑んで和やかな雰囲気だ。人生の終盤へと向かうかのような第7変奏では、しっとりとした弦楽器の響きが心に沁み入る。後世への不安を感じさせる第8変奏、スミスさんの変幻自在のフルートが出色だ。大袈裟かもしれないけれど、8つの変奏が人生そのもののように感じられる。
フィナーレは、様々な苦難を乗り越えて辿り着いた境地のよう。フィナーレを聞くと、すべての人へ心から感謝する気持ちが沸き起こってくる。コーセル氏のクレーンカメラを使用した演出が、幸福感の充溢するセヴェランスホールの雰囲気を余すところなく捉えていた。
ちょうどオンデマンド中ですが、
こちらもぜひ映像でご覧になってください。
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参考資料
Cleveland Orchestra Program Note
2011年の演奏は録音を購入して聴きました。クリーヴランドとの演奏とは打って変わって重厚感のあるどっしりとした演奏でしたね。その時はあまり感銘を受けることもなかったのですが、チクルスでの演奏は花開いたような輝きをまとっていて気に入っています。何より映像では本当に楽しそうに音楽と溶け込むマエストロのタクトさばきが見られるので、見る側もそういう気分になれますね笑
特にフィナーレは充実感をひたひたに満たしてくれるような幸福度100%の豊かな調べなので、「すべての人へ心から感謝する気持ちが沸き起こってくる」というのもよくわかります。
by T.D (2016-06-25 13:16)
T.Dさん
2011年は何を聴いていたのだろう、というくらい記憶にありませんでした(笑)。重心は低めですが、やりたいことは今と同じなのかなと思います。(当時は初めて聴いたドヴォルザークの5番にはまりました^^)
コーセル氏はブルックナーの頃から演出を担当しているので、撮り慣れているのでしょうか。マエストロや奏者さんの素晴らしい表情をカメラに収めてくださって嬉しい限りです。
by menagerie_26 (2016-06-26 10:23)
ヴェルザー=メストはドヴォルザークをキレよく演奏しきるので良いですね。2008年のマイアミでの新世界を聴きましたが、キレッキレで大好きです。ここまで新世界をカッコよく演奏できるのかと思いました。(購入したCDは音質が酷いものだったのでそれだけが残念です泣)
コーセルさんの映像は、しっかりとクローズアップされるべきところを撮りきっている感じがしますね。ブルックナーの映像は手にしていませんが、その頃から手がけているとは。ツボを押さえられるはずですね(他の指揮者に比べてマエストロは撮りがいのある指揮者のような気がします)。
by T.D (2016-06-28 18:29)
T.Dさん
2008年のマイアミの新世界をお聴きになったのですね!私はセヴェランスホールの放送を逃したので未だに聴けておりませんが、5番から想像するに颯爽とした演奏のような気がいたします。メジャー曲ですし、グラモフォンから出して欲しいです^^
オーケストラ専属のフォトグラファー、Roger Mastroianniさんによると、どうやらヴェルザー=メストは撮られることには慣れているのですね。前任者のドホナーニさんとの対比が面白いです(^^)
http://www.cleveland.com/musicdance/index.ssf/2009/08/roger_mastroianni.html
Roger MastroianniのリニューアルされたHPでは、最近の写真もたくさん掲載されています。
http://rogermastroianni.com/
by menagerie_26 (2016-07-01 20:49)
5番も良かったですよね(マエストロの演奏は贔屓目に見てしまうのですが...笑)。新世界は、それよりも驚くほどスピーディで力強い演奏でした。ただ、やはり第二楽章は美しくて、彼らしいなと思います。ヴェルザー=メストにぴったりの曲ですね。グラモフォンも彼を取り上げないなんてもったいない。
私は写真も趣味の一つなのですが、やはりプロが撮る写真は素敵ですね。被写体の人物が非常に生き生きとしていて。しかしマエストロが撮られ慣れているとはちょっとびっくりです。とってもシャイな方なのではないかと思っていました笑
ブロッサムの英雄は放送されないようですね。この前の第九といい、残念...。
by T.D (2016-07-01 22:33)
T.Dさん
T.Dさんの感想を拝見して益々、新世界が聴きたくなってきました!泰西名曲ほど、指揮者の実力が出ますよね。
音楽現代7月号のアメリカ通信で、上地さんがマエストロのことを「天性の優雅さが備わっている」とお書きになっていました。同性から見ても魅力的なのだろうと思いますし、Mastroianniさんも撮りがいがありそうですね(^^)。
再放送が続き、ライヴ放送が少ないのは遠方に住む者としては辛いところです・・・。
by menagerie_26 (2016-07-03 09:42)