SSブログ

ブラームス ピアノ協奏曲第2番 - Johannes Brahms Cycle No. 9 [Johannes Brahms Cycle]

縮景園


Piano Concerto No. 2 in B-flat major, Opus 83
The Cleveland Orchestra
Franz Welser-Möst, conductor
Yefim Bronfman, piano


県立美術館で開催中の東山魁夷展の帰りに、縮景園に立ち寄った。台風前の生憎の天候ではあったけれど、空を見上げると、雲の隙間から秋のはじめの澄明な陽光が、木々へ降り注いでいた。紅葉が始まろうとしている。

初秋にふさわしいピアノ協奏曲第2番は、作曲家として充実期にあるブラームが、イタリア訪問に感銘を受けて作曲した。明るい曲調ながらも、ブラームスらしい翳りのある情熱的な旋律が美しく、心の綻びるような感傷に浸らずにはいられない。


ヴェルザー=メストとブロンフマンが、曲について大変興味深いコメントを寄せいているので紹介したい。端的に言ってこの演奏会、ヴェルザー=メストとブロンフマンの、曲の本質を見抜くバランス感覚が思う存分発揮された名演だ。(翻訳は、昨年のBSプレミアムのキャプチャを引用させていただいた。)

----------------------------------------------
ブロンフマン:「書かれた通りに素直に演奏すればよいのです。ことさら重厚にする必要はありません。」

ヴェルザー=メスト:「第1楽章は素晴らしいホルンの独奏とピアノの掛け合いで始まりますが、そこが重厚になりすぎると最終楽章が滑稽に聴こえてしまいます。」 「こういった曲は「旅」に似ていて、出発する時にはゴールを決めておかねばなりません。これが第2番の難しいところです。第1楽章を見た目通りに演奏すると本来の行き先を見失ってしまいます。4楽章全てを理解すれば、正しい道筋を通って「旅」を完結することができるのです。」
----------------------------------------------

まさにそうなのだ。私はあの冒頭を重厚に演奏されるのがとても苦手だった。ライヴで聴いたTimothy Robson氏は ” From the opening horn solo, beautifully played by principal horn Richard King, and Yefim Bronfman's first entrance one had the sense that this was a special performance. “と記している。日本語でいうところの「これは名演の予感がした!」だろうか。


第1楽章。
ホルン首席リチャード・キングさんの温もりのあるソロを、ピアノが丁寧に受け、スミスさんのフルートが橋渡しをする。最初の独奏からブロンフマンの音色が出色だ。ブロンフマンはペダルを巧妙に駆使し、堂々とした響きの中に嫋やかさを覗かせる。トゥッティが演奏する生命力に満ちた力強い旋律は、東山魁夷の『行く秋』の世界の如く、眩しいほどに燦々と輝く。ヴェルザー=メストとクリーヴランド管は、雲一つなく晴れ渡った天色の空のような清らかな響きを保ちつつ、毅然とした雰囲気でブロンフマンに応える。


第2楽章。ピアノの旋律を聞いた途端、心に痛みが走る。暗い深海でひっそりと孤独を味わっているかのような感覚だ。人生は落胆の繰り返しと言わんばかりの陰鬱な雰囲気は、いかにもブラームスらしい。美しさと沈鬱な面持ちが混じりあったピアノが心に滲み入る。


第3楽章。泣いても泣いても涙が溢れ出てくるような底知れぬ空虚感。過ぎ去った日々に想いを馳せながら、残りの人生を穏やかに生きたいと願っているかのようだ。静謐の空間に身を置きながら、ブラームスの心の中には何が浮かんでいたのだろう。首席チェロ、マーク・コソワーのさんの深みのある情緒的な音色が、もうそれはそれは素晴らしく、身も心も綻びるかのようだ。ブロンフマンは、淡く儚げなタッチで、静かに寄り添う。


第4楽章。ガラリと雰囲気が変わり、ピアノもオーケストラも今にも踊り出すかのように軽やかだ。酸いも甘いも噛み分けたブラームスがたどり着いた境地とでも言うのだろうか。この上なく優美にオーケストラを響かせるのは、ヴェルザー=メストの十八番。歯切れよく粒立ちのよいブロンフマンのピアノ、しっとりとした弦、端正な木管、全てが一体となり輝かしいフィナーレを迎える。


途中胸が張り裂けそうなくらい苦しい旅路だったけれど、ゴールした瞬間の清々しさといったらもう!フランツ先生は、実に巧みに私たちを引率してくれたのだった。


明日の朝9時から、WCLVで再放送があります。
まだの方は是非聴いてください!!
11/12シーズンのマイアミレジデンシーのブラームスはこちらから視聴可能です。






Johannes Brahms Symphonies Nos.1-4 - Tragic Overture [Blu-ray] [Import]

Johannes Brahms Symphonies Nos.1-4 - Tragic Overture [Blu-ray] [Import]

  • 出版社/メーカー: Belvedere
  • メディア: Blu-ray



nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 2

コメント 2

T.D

こんなにも共感したレビューは初めてかもしれません。全くの同意見で、拝読して音楽と情景が完全に一致しました。ヴェルザー=メストが"旅"と比喩し、ブラームスの人生の旅路をありのままに描くオケとピアノ。一見した幸福に翳りを落とす彼の作風が、直球的に心に刺さる演奏だと私も思います。

"名演の予感"まさに。ホルンの控えめで柔らかな響きに、光を差し込むようなピアノの輝き。あの数小節だけで音楽の世界に引きこまれます。重厚でないからこその、儚さに似た美しさが素晴らしい。

第3楽章の"泣いても泣いても涙が溢れ出てくるような底知れぬ空虚感"には、もらい泣きしてしまいそうになります。ブラームスほど雄弁な作曲家を私はあげられません。
by T.D (2016-09-26 00:54) 

menagerie_26

T.Dさん

不思議と情景が思い浮かび、次から次へと言葉が溢れ出てきました(こんなことは滅多にありません…汗)。共感してくださってありがとうございます。
“重厚でないからこその、儚さに似た美しさ” まさにそうですね!! 詩情に溢れた儚い響きは、何度聴いても胸に迫るものがあります。すっかり別次元へ連れて行かれました。ヴェルザー=メストもブロンフマンもオケも、本当に素晴らしいですね。録音でここまで聴かせてくれるのですから!! 通勤時に聴きながら、涙腺が緩みっぱなしでした(^^;

実は一年前に聴いたときは、それほど印象に残らなかったんです。聴き手の状況や経験に左右されるものなのですね。

by menagerie_26 (2016-09-27 01:04) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。